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2022/04/07 19:36

銭湯へは母ちゃんの決断で出かけた!小高い山の上にあった我が家。銭湯まで坂道を下り、踏み切りを渡った。燃料のチップが散らばっていた銭湯の裏は、まるで お楽しみ広場。そこに大きな黒い自転車を押して、紙芝居のおじさんがやってくるんだ。早速、近づいてジロジロと覗き込むボクへ、そのおじさんの第一声。「お金は持っとるね?」ボクのタダ見のもくろみは無残にも阻止されていた。趣味活動なんかじゃなかったんだね。


さて、銭湯の入り口。ボクは母ちゃんに手を引かれるまま、女湯へ入場。母ちゃんは、脱衣室に入るや否や、これだと決めた丸い籐かごに、服を脱ぎ捨てながら、ボクの服まで脱がせてくれる。男湯と女湯の境目にある番台では、おじさんとおばさんが交代で、週刊誌を眺めながら、何やらこちらをチラリチラリ。さて風呂場。くもったガラス戸を開けると、カラオケボックスが大集合したような音、声が響き渡る。壁の向こうは男風呂。仕切りの壁の足元の10センチくらいの隙間から、家族同士の石鹸のやりとり。壁越しの会話。湯船といえば、子供たちの水中忍者教室。「こら、泳いじゃいかん!」大人の愛のムチがピシャリ。どこの子供であっても容赦なかった。ボクは木造の風呂桶をいくつか重ねて、自動車の運転ごっこ。だって泳げなかったから・・・。実は、このお風呂で溺れたことがあるんだ。足を滑らせてね。そん時の母ちゃんは凄かったよ。まるでカワセミだった。湯船に沈みながら、はっきり見たんだ。母ちゃんが飛び込んでくるのを。

その恩人がボクの体を洗ってくれる。とにかく綺麗好き。我が家で出来た<へちま>のタワシで磨いてくれる。痛いのなんのってね。その途中。「母ちゃん、今日は、頭、洗うと?」脱衣室の映画のポスターの横に、髪を洗う場合は別料金って表示があってね。銭湯用のシャンプーを使うわけではないのに、なぜ料金が追加されるのか不思議だったな。お湯をその分使うからだったの?


母ちゃんが、右ひざにボクの頭をのせて髪を洗ってくれる。仰向けの体勢。空色に塗りこまれた天井が見える。天まで高く、まるで湯気と一緒に吸い込まれる気がしたなぁ。洗い終わると「さぁ、首まで浸かれ」と、母ちゃんの命令で、ボクはゆでダコに。。。フラフラと脱衣室へ。ドライヤーなんて無い時代。風邪をひかせぬようにと、ボクの髪を乾かすのに母ちゃんは必死。プロレスのヘッドロックって知ってる? あの技を使い、タオルで髪を拭いてくれる。おかげで、ボクの脳みそは、揺らした豆腐。そして「ゆうじ飲むかい?」待望の一声。ビン入り茶色のヨーグルト。母ちゃんは、丸い紙のフタを爪でこじ開けて飲ませてくれた。うまかったなぁ。ほんとにうまかった!